昆虫や花の撮影に欠かせない「マクロレンズ」。
特に昆虫撮影には、必ず1本は持っていたいレンズです。
「マクロレンズ」といっても焦点距離によって種類があります。
本では「昆虫撮影には中望遠域のマクロレンズがいい。」なんて書いてあったりします。
その言葉は知っていても、その理由が、何となくわからない方も多いはず。
今回は、昆虫撮影で大切な「ワーキングディスタンス」のお話です。
マクロレンズの特長「接近して大きく写せる」
初めてのデジタル一眼レフカメラをキットレンズセットで買った方も多いと思います。
このキットレンズで昆虫を撮影することは出来ます。
しかし、多くの方は「マクロレンズ」を新たに購入します。
なぜなら「マクロレンズ」は、昆虫を「接近して、大きく写せる」レンズだからです。
この「接近」と「大きく写せる」の意味が難しく、私も初めて「マクロレンズ」を選ぶ時には大変迷いました。
そこで今回は撮影風景も交えながら、お話したいと思います。
「接近」=「最短撮影距離」が短い
まずニコンのHPを確認してみます。
入門一眼レフカメラのレンズキットに設定されているレンズは「AF-P DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」や「AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR」。
または、「AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR」ですね。
つまり、これらのレンズからステップアップとして「マクロレンズ」を考えている方が多いということ。
そこで、それらのレンズの「最短撮影距離」を確認してみます。
レンズ名 | 最短撮影距離 |
---|---|
AF-P DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR | 0.25m(ズーム全域) |
AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR | 1.1m(ズーム全域) |
AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR | 0.45m(ズーム全域) |
「最短撮影距離」は表の通りです。
この「最短撮影距離」が短いと「接近」が可能なレンズになります。
「最短撮影距離」は「ワーキングディスタンス」ではない
まず、マクロレンズの説明でたびたび登場する「最短撮影距離」。
稀に聞く「ワーキングディスタンス」。
この2つは異なる距離を表しているので説明します。
レンズのカタログの仕様表に記載されている「最短撮影距離」とは、「最も近くでピントを合わせられる位置から、カメラの撮像素子(センサー)までの距離」です。
つまり、写真の赤いラインが「最短撮影距離」になります。
では、「ワーキングディスタンス」とは、どの距離かというと。
「ワーキングディスタンス」は、「レンズ先端から被写体までの距離」です。
この「レンズ先端から被写体までの距離」の事を「最短撮影距離」と勘違いしている方が多いので注意が必要です。
なぜなら「ワーキングディスタンス」は、あくまで「被写体からレンズ先端までの距離」のため、最短ピント位置でなくても「被写体からレンズ先端まで」は「ワーキングディスタンス」になるのです。
また、レンズフードをつけた場合は、「レンズフード先端から被写体までの距離」となるので、同じカメラと同じレンズの組み合わせでも「ワーキンディスタンス」は短くなります。
今回は、イメージしやすい「ワーキングディスタンス」で話を進めます。
ワーキングディスタンスでマクロレンズを知ろう
「ワーキングディスタンス=ピント位置ーレンズの長さ+フランジバックの距離」という計算で、レンズのワーキングディスタンスを知る事が出来ます。
私が使用しているDX用マクロレンズ、「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」で確認してみます。
寸法 | 64.5mm(レンズ先端からレンズマウント基準面まで) |
---|---|
最短撮影距離 | 0.163m(等倍) |
最大撮影倍率 | 1.00倍 |
フランジバック距離 | 46.5mm(ニコンFマウント) |
以上のデーターから、マクロレンズの特長である等倍撮影で計算してみましよう。
ワーキングディスタンス=163-(64.5+46.5) |
単位をmmにそろえて計算式に当てはめます。
ワーキングディスタンス=52(mm) |
計算をすると、「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」のワーキングディスタンスは52mmになります。
つまり、最大倍率である「等倍」で撮影したい場合は、レンズから被写体の距離が約5㎝の距離まで近づく必要があるということです。
では、実際に「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」の「ワーキングディスタンス」が5㎝とはどんな感じか見てみましょう。
「ワーキングディスタンス」が5㎝とはこんな感じです。
レンズから被写体が近い事がわかると思います。
続いて、レンズフードをつけた「ワーキングディスタンス」です。
もう、昆虫に当てないように撮影する方が難しい距離です。
実際に生きている昆虫でこんな距離まで近づくことは、まず出来ません。
そこで、昆虫撮影では「ワーキングディスタンス」が長い距離のレンズが必要になるのです。
ついでに、「AF-P DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」の前のレンズである「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」が手元にあるので比較したいと思います。
寸法 | 79.5mm(レンズ先端からバヨネットマウント基準面) |
---|---|
最短撮影距離 | 0.28m(ズーム全域) |
最大撮影倍率 | 0.31倍 |
フランジバック距離 | 46.5mm(ニコンFマウント) |
項目名 | ここに説明文を入力してください。 |
以上のデーターから計算します。
ワーキングディスタンス=280-(79.5+46.5) |
ワーキングディスタンス=154(mm) |
つまり、「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」の「ワーキングディスタンス」は約15㎝なのです。
実際に「ワーキングディスタンス」が約15㎝を見てみましょう。
だいたい、こんなこんな感じの距離になります。
最初に見ていただいた、「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」の「ワーキングディスタンス」が5㎝とは全然違いますね。
昆虫撮影では、被写体から15㎝以上離れて撮影した方が成功率が高いので、「ワーキングディスタンス」だけに注目すれば、「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」よりも、「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」の方が扱いやすい事がわかります。
あくまで、「ワーキングディスタンス」だけに注目すればです。
なぜなら、「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」は「撮影最大倍率」が1.00倍の時の「ワーキングディスタンス」だからです。
一方、「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」の最大撮影倍率は0.31倍です。
その差が約3倍。
つまり、「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」では、小さい物の一部を大きく切り取る撮影(等倍撮影)が可能でも、「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」ではその1/3の大きさでしか撮影する事が出来ないのです。
「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」の最短撮影距離は全域(55mm域)でも0.28mなので、大きく撮影しようと被写体までの距離を詰めても、0.28m以内に入った場合に全てピンボケの写真になってしまうのです。
それでは、実際に写真で確認してみて下さい。
「AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G」の最大撮影画像
大きさが4㎝ほどのフィギュアを撮影しました。
「最大撮影倍率」では、フィギュア全体を写す事は出来ず、目が画面いっぱいの写真になります。
次に「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR」の最大撮影画像
先ほどのフィギュアとほとんど同じ大きさですが、こちらの写真ではフィギュア全体を写す事が出来ています。
もし、このフィギュアの一部を大きく撮影したくても、これ以上の拡大は出来ないということになります。
近づけば、ピンボケになるので、撮影した画像をトリミングするしかありません。
新たに「最大撮影倍率」という言葉も出てきましたね。
昆虫撮影には「ワーキングディスタンス」だけでなく、「最大撮影倍率」も大切なので、別の記事で説明したいと思います。
まとめ
「ワーキングディスタンス」は「最短撮影距離」とは別の距離ですが、近づく事の難しい昆虫撮影において、「ワーキングディスタンス」でレンズを選ぶことも大切です。